今月は震災関連の本を
3冊ご紹介しました。

長嶋有 著/問のない答え
震災発生の3日後、小説家のネムオは、
ツイッターで「それは何でしょう?」という
言葉遊びを始めました。
出題の一部だけ明らかにされた質問文に、
参加者が答え、
出題者が質問の全文を明らかにしたとき、
参加者はいろいろな人から寄せられた
「問のない答え」をさかのぼって、
解釈や鑑賞を書き連ねます。
もともと出題の全容が分からないので、
正しい答えなんて存在しません。
そこがいいんです。
具体的な質問や回答などは、
本を読んで楽しんでください。
この小説、とにかく登場人物が多いんです。
章の区切りもないので、
終盤になるまで章があることを忘れていました。
このノンストップ感が、ツイッターっぽいです。
そんな変わった表現の中で、
震災後、ここに参加している人たちが、
どんな気持ちで過ごしているのかということが、
いろいろな場面で描かれています。
何かとても大きなことが起こるわけではなく、
大きな感動があるわけではないけど、
作者の長嶋さんが、
登場人物に寄り添っているのが分かる、
そんな本です。

広瀬隆 著/危険な話 チェルノブイリと日本の運命
本当に大切なことって伝えられないんだなと、
暗澹たる気持ちで読み終えました。
この本は、ノンフィクション作家の広瀬隆さんが、
旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所で
事故が発生した後、
各地でしていた講演会の話がまとめられています。
全てを把握したうえで、広瀬さんは、
「私たちはどこにも逃げられないのです」
と、言っています。
これまで、直感的に「まずいぞ」と思っていた部分が
やっぱり当たっていることが分かり、
クリアになりました。

佐々涼子 著/紙つなげ!
私たちの生活の中には、
当たり前のように紙がありますよね。
当たり前すぎて、その重要性について
考えたことがありませんでした。
しかし、東日本大震災後、
出版業界は慌てていました。
紙がないからです。
日本製紙石巻工場の震災前の生産量は、
1年で約100万トン。
実に、この国の出版用紙の約4割を
しめていました。
その石巻工場が被災してから、
半年後、紙を造るまでが描かれています。
地震発生直後の息のつまるような情景や、
無理とも思えるミッションに立ち向かう人たちの情熱、
報道されなかった、
地元の人たちが略奪に苦しむ姿も描かれています。
ただの美談ではなく、
未曽有の大災害で、
人間がどのように変わっていくのかも
知ることができます。
本にはこう書いてありました。
「手の中にある本は、
顔も知らぬ誰かの意地の結晶である。」